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Wine Column ♯3 メイラード反応(Maillard Reaction)

2023.11.17 コラム

 メイラード反応とは1912年にLouis Camille Maillard氏により報告された、アミノ酸と還元糖による縮合反応
、食品の味わいや風味、焼き色、人体の老化現象など幅広い分野に関わってきます。酒類にも大きく関わる反
応で、比較的ワインに対する影響は少ないと言われますが、残糖の多い甘口ワインや、酸化的熟成のワイン、
補糖のあるスパークリングワインなど影響の出やすいタイプもあります。
世の中においてとても重要な化学反応であり、当たり前のようでとても複雑なため、多くの場面で簡略化され
説明されることが多いですが今回は少し細かく掘り下げます。


さて、アミノ酸と還元糖による縮合反応ということですが、そもそもアミノ酸と還元糖とはなにか。
アミノ酸:アミノ基とカルボキシ基を両方持つ有機化合物
還元糖:塩基性溶液中でアルデヒド基とケトン基を形成する糖
アミノ酸はご存じの通りたんぱく質の構成ユニットで、人の生体は20種類のアミノ酸から構成されていてそ
のうち9種類のアミノ酸は必須アミノ酸と呼ばれ食事などによる接種が必要となります。アミノ酸が2つ
以上結合したものがペプチドと呼ばれ、50以上結合したものがたんぱく質と呼ばれます。酵素と呼ばれるも
のもたんぱく質にあたります。メイラード反応ではアミノ酸を構成するアミノ基が重要になってきます。
還元糖はカルボニル基の構造を持っていてそのカルボニル基とアミノ酸のアミノ基の反応がメイラード反応
言えるのです。
ブドウ糖や果糖など全ての単糖、麦芽糖や乳糖などの二糖類も還元糖になります。
ショ糖はブドウ糖と果糖の結合物ですが、結合の際にカルボニル基同士で結合してしまっているため、メイラ
ード反応は起こりません。


アルコール発酵において、酵母はアルコールの代謝に酵素を使うため、ワインの中にはたんぱく質・アミノ酸
が含まれていることとなり、還元糖の存在があればメイラード反応を起こす可能性があることがわかります。


メイラード反応は加熱により促進されますが、低温や常温でも進行していきます。
初期反応:アマドリ化合物の形成
中期反応:フルフラールや5-ヒドロキシメチルフルフラール等、カルボニル化合物の生成
終期反応:イミン類やメラノイジン等、褐色物質の生成
と、おおまかに3段階にわけられますが、高温にさらされずphも低いワインにおいては、終期反応まで進むこ
とはないとされています。初期反応のアマドリ化合物が形成された結果、そこから中期反応でカルボニル化合
物が生成され、そのカルボニル化合物が様々な香気成分の前駆体となります。
因みに中期反応で生成される5-ヒドロキシメチルフルフラールはスパークリングワインの熟成指標にも使わ
れています。「お肉を焼くと茶色くなる」等、料理においては終期反応まで進行させて、褐色物質が生成され
ることが大きな意味を持っています。
カルボニル化合物が前駆体となって生成される香気成分では、パンやトーストの香り、キャラメル、ナッツ、
焦げ、肉などと形容されることが多いですが。ここでもう一つ重要な化学反応があります。
それはストレッカー分解と呼ばれ、メイラード反応とは異なる反応経路ですが基本的にメイラード反応と並行
して生じます。
中期反応ではカルボニル化合物の生成のほか、ピリジン類やピロール、α―ジカルボニル類なども生成されます
が、このα―ジカルボニル類がストレッカー分解にて様々な香気成分を生成する要因になります。因みにマロラ
クティック発酵の話中によく出てくるジアセチルもα―ジカルボニル類に分類されます。


α―ジカルボニル類がアミノ酸と結合するとアルデヒドと二酸化炭素を生成しその反応がストレッカー分解と呼
ばれますが、その際にどんなアミノ酸と結合するかによって様々な香気成分やその前駆体を生成します。
メチオニンと結合すると醤油のような香りの3-プロパナールを、フェニルアラニンと結合すると花のような
香りのフェニルアセトアルデヒドを、ロイシンと結合するとチーズや汗のような刺激臭の3-メチルブタン酸
を、などポジティブなものもネガティブなものも生成物は多様です。品種や酵母の種類、気候や栽培・醸造方
法によって含まれるアミノ酸の種類や量が全く異なってくると考えると、生成される香気成分の種類の多さが
伺えます。


つまりは一言で「メイラード反応」と言ってもワインの香りや味わいに対する影響を考える場合は、ストレッ
カー分解による影響まで含めて考察する必要があります。


簡単な言葉でまとめると、ワイン中のアミノ酸と糖が反応して香気成分の生成が行われ、並行してストレッカ
ー分解により、さらに多様な香気成分などの生成とわずかな黄みに至る色調変化が起こる。それはポジティブ
なものもネガティブなものも示唆されるわけです。
アルカリ性環境のほうが反応が出やすいため、ワインのようにphが低く、低温環境だとワイン中の1%程度か
それ以下の還元糖しかメイラード反応を起こさないと言われていますが、糖を添加するスパークリングワイン
や、甘口ワインでは長期熟成によりゆっくりと反応していきますし、ムーブメントのあるナチュラルワインで
も反応しやすい可能性が示唆されています。溶液中のアミノ酸の種類や量、糖の量を精細に鑑みることによっ
て、メイラード反応・ストレッカー分解を利用したより的確なアプローチができるようになっていくかもしれ
ません。




Columnist

木下 隆一


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