Wine Column ♯2 ワラムンダ・エステート、オリヴィア・ザック-マグジアルツ氏へインタビュー
♯2
ワラムンダ・エステート、オリヴィア・ザック-マグジアルツ氏へインタビュー
近年の注目冷涼産地の一つであるオーストラリア、ヤラヴァレー。点在する優良な家族経営ワイナリ
ーの一つがWarramunnda Estate(ワラムンダ・エステート)だ。ヤラヴァレーはメルボルンから車で
30分ほどで行けて、各ワイナリーにて試飲を含めた食事などを楽しむセラードアが多く開かれているた
め、人気観光地の一つでもある。
1998年にカベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シラーズ、マルサンヌ、ヴィオニエが植えられ
たワラムンダ・ヴィンヤードはしばらくの間、地元のワイナリーにブドウを販売する目的で管理されて
いたが、2007年にマグジアルツ家が購入し、シャルドネ、シラー、カベルネ・フラン、マルベック、メ
ルロ、プティ・ヴェルドを追加で植樹、その後2013年ヴィンテージからワラムンダ・エステートとして
ワインを初リリースする。
新進気鋭ともいえるこのワラムンダ・エステートの当主Robert Magdziarz(ロバート・マグジアルツ
)氏とIrene(アイリーン氏)の一人娘、Olivia Zak-Magdziarz(オリヴィア・ザック-マグジアルツ)氏
へインタビューをする機会に恵まれた。
ワラムンダ・エステートはワラムンダシリーズとリブザックシリーズの2ブランドを造っていて、ワラ
ムンダシリーズは父ロバートの指揮、リブザックシリーズは娘のオリヴィアの指揮だ。
この二つのシリーズ、ヴィンヤードは同じで共通する品種はブドウも同じものを使用する。醸造過程
においての工程で違いを出して、リブザックのほうが少し安価な設定。
ワラムンダは酸をよく残しよりエレガントでシームレスな高級感を狙う一方で、リブザックは華やかな
香りや、より簡明直截な果実味でアプローチャブルに女性の消費者を意識したという。パッケージのデ
ザインにもその狙いは反映されている。
【ワラムンダ・エステートの栽培】
まずこのワラムンダ・エステートの規模としては全体で48.5ha、そのうち26.3haが作付面積、平均し
て年産7,000ケース、最多で12,000ケースと家族経営ワイナリーとしてはかなり大きい。
ヤラヴァレーのヴァレーフロアと呼ばれる北西側にあたる地区、コールドストリームに位置し、標高は
120m~180m。アッパー・ヤラヴァレーと呼ばれる南東の地区より標高が100mほど下がる。斜面は北向
きで十分な日照が得られる。水はけの良い多孔質の砂岩が下層の岩盤までまたがり、グレーや茶褐色の
砂質ロームや粘土が広がり表土は薄め。畑は現在7つのブロックに分かれる(※)。基本的に灌漑が必要
なエリアだが自然の降雨で育成している。
バイオダイナミック農法を取り入れ、栽培にはムーンカレンダーを参考にする。カバークロップや益
虫の活動促進、天然の散布剤など有機的でサスティナブルな管理も徹底している。
【多様な醸造技術】
オリヴィアが何度も口にしたことで、栽培段階でのブドウの理想像はあまり追求せず、あくまでも自
然の力で実ったブドウを醸造し彼女たちのスタイルを目指す。収穫のタイミングの見極めから目を光ら
す。収穫時までのゴールにあまりこだわらないため、醸造に移ってからの一貫した作業がなかなか見当
たらないほど手数は多い。
例えば2019のワラムンダ・ピノ・ノワールは100%除梗したものと、100%全房の2パターンを仕込み
225ℓのバリックだったが、2020は3種のクローンごとに100%の全房発酵で、500ℓのパンチョンに仕
込んだ。7~10日間のマセラシオン・カルボニックも行った。
2015のカベルネ・ソーヴィニヨンは20%のブドウは軸を残したのに対して、2016は100%除梗した。
基本的には野生酵母による発酵だが2015のカベルネ・ソーヴィニヨンは野生酵母による発酵が始まった
瞬間に培養酵母を追加した。スキンコンタクトを30日延長した樽と15日延長した樽があった。
発酵中のプランジング(ピジャージュ)やポンピングオーバーはどちらを使うのか、またその頻度も当
たり前に違うが、密閉槽なのかオープン槽なのか、コールド・マセレーションの有無、新樽比率はどれ
くらいが適正か、パンチョンなのかピエスやバリックなのか、シュール・リーの期間とバトナージュの
有無など、同じ品種に対してもヴィンテージによるアプローチの差がかなりあった。
栓に関して、コルクとキャップシール、コルクと蝋キャップ、スクリューキャップの3種類を使ってい
るが、現在のところそこはまだ色々なパターンを模索しているという。
工業的な現場を除けばほとんどの造り手がその時できる最善策を当たり前に講じるので、いたって自
然なことだが、ワラムンダ・エステートの両シリーズは、ヴィンテージごとの細かい要素の好みはあれ
どスタイルは一貫している。
※ヴィンヤードの7ブロックは以下の通り。
ブロック1=ボルドー品種、1998植樹
ブロック2=エルミタージュからだと思われるシラー、2007植樹
ブロック3=ピノ・ノワールMV6クローン、1999植樹
ブロック4=マルサンヌとヴィオニエ(コンドリュー)、2001植樹
ブロック5=ピノ・ノワール114,115,G5V14クローン、2001植樹
ブロック6=新規育成中のピノ・ノワールABEL、MV6、667クローン、2018植樹
ブロック7=シャルドネ、メンドーサクローン、2018植樹
Columnist
木下 隆一
前回のオーストラリアワイン産業のコラムの流れから、今回は株式会社アスウィンの主力ブランドで
ある、ワラムンダ・エステートについて寄稿させていただきました。
当主のご長女、オリヴィア氏へのインタビュー時間を設けさせていただきましたが、対処療法的な様々
な醸造のノウハウをヒアリングしきるには何倍もの時間が必要でした。2013年からの蓄積データしかな
い中で毎年一貫したスタイルを構築することは、かなりのセンスが求められることだと思います。
私の周りにもあからさまなブルゴーニュラヴァーが多いですが、このワラムンダ・エステートのエレガ
ンスは受け入れて頂けることばかりです。まだ飲んでいない方には一度おすすめ致します。
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